これまでの4本の記事では、評価データとモデルの側を検証してきました1。ベンチマークに日本語が何件含まれるか、トークナイザが日本語をどう扱うか、日本のガイドラインの改訂にモデルが追随できているか。

今回は、実装の側を確認します。AIが日本の診療現場で実際に使われるとき、診断から支払いまでの各段階で、どのような制度上の制約があるのかを一次資料で調べました。

結論を先に述べます。最も鋭い制約は、診断ではなくレセプトにありました。

診断 — 判断の主体は医師である

厚生労働省は2018年12月19日、医政局医事課長通知(医政医発1219第1号)で次の整理を示しています2。AIを用いた診断・治療等の支援を行うプログラムを利用して診療を行う場合であっても、診断や治療等を行う主体は医師であり、医師がその最終的な判断の責任を負います。

この整理は明快で、実務上の迷いは少ないと思います。AIは支援であって、主体ではありません。

もう一つの制約は薬機法です。ソフトウェアが医療機器に該当するかは、医療機器としての目的性を有すること、そして意図したとおりに機能しない場合に患者の生命および健康に影響を与えるおそれがあること、この二つで判断されます3。該当する場合はリスクに応じてクラスIからIVに分類され、クラスIは届出、クラスIIの一部は登録認証機関による第三者認証、クラスIIの一部からIVは医薬品医療機器総合機構(PMDA)による製造販売承認の審査を受けます。

2021年4月には、厚生労働省にプログラム医療機器室が、PMDAにSaMD審査室が設置されました。PMDAには医療機器該当性を確認するための一元的相談窓口も用意されています。

カルテ記載 — 記録の責任と、動き続ける標準仕様

医師法第24条は、医師が診療をしたときは遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならないこと、そしてその診療録を5年間保存しなければならないことを定めています4。

電子的に保存する場合は、真正性・見読性・保存性の三つの基準を満たす必要があります。真正性は、記録の作成責任者が明確で、改ざんが行われていないことが保証されている状態を指します。AIが下書きを生成した記載について、作成責任者を誰とし、どの操作をもって確定とするのか。この設計は、システムを導入する各医療機関が定めることになります。

調べた範囲では、AIが生成した記載の責任の所在について、公的な見解は見つかりませんでした。存在しないのか、私が見つけられなかったのかは判断がつきません。いずれにせよ、現時点では各医療機関が自ら整理すべき領域です。

さらに、記載の土台となる標準仕様そのものが、いま動いています。厚生労働省が進める標準型電子カルテは、標準仕様のver.1が2026年9月に公表され、2027年4月からのベンダー提供が目指されています。電子カルテ情報共有サービスは、2026年度の冬ごろの全国本格運用を目指す段階です5。

レセプト送信 — ここが最も鋭い

診療報酬の請求は、保険医療機関から審査支払機関へレセプトを提出する形で行われます。審査支払機関は、被用者保険であれば社会保険診療報酬支払基金、市町村国保や後期高齢者医療広域連合であれば国民健康保険団体連合会です6。

審査は、保険医療機関及び保険医療養担当規則、診療報酬点数表、関連通知といった国が定めた保険診療のルールに基づいて、算定が適正かどうかを確認する形で行われます。

請求が通らない場合は、二つの経路があります。記載の不備や疑義がある場合は返戻となり、医療機関に差し戻されます。算定が保険診療のルールに適合していないと判断された場合は査定となり、増減点連絡書によって通知されます。

この査定には、事由の区分があります6。

査定の事由区分(医学的事由)
区分内容
A医学的に適応と認められないもの
B医学的に過剰・重複と認められるもの
Cその他医学的理由により適当と認められないもの
D告示・通知に定められた算定要件に合致していないと認められるもの

D事由に注目してください。医学的な誤りではありません。告示・通知に定められた算定要件に合致していない、という事務的な不適合です。

前回の記事で、3つの主要モデルがいずれも2013年版の枠組みでワルファリンの目標INRを答えたことを報告しました。臨床ガイドラインの場合、古い版で答えることは臨床判断の誤りにつながります。しかし診療報酬の場合、古い版で答えることは、そのままD事由による査定になります。

2026年6月1日に、何が起きたか

令和8年度診療報酬改定は、2026年2月13日に中央社会保険医療協議会が答申し、薬価改定は同年4月1日、診療報酬改定は6月1日に施行されました。本体の改定率はプラス3.09%です7。

この改定で、医療DXに関する評価が改組されました8。

令和8年度診療報酬改定における医療DX関連評価の改組(医科)
改定前(廃止)点数改定後(新設)点数
医療DX推進体制整備加算1〜612/11/10/10/9/8点電子的診療情報連携体制整備加算1/2/3(初診時・月1回)15/9/4点
医療情報取得加算(初診時)1点同(再診時・月1回)2点
医療情報取得加算(再診時・3月に1回)1点同(入院時1/2・入院初日)160/80点

4か月

改定の施行から経過した期間。
この間に、加算の名称・区分・点数・施設基準が入れ替わりました。

6区分あった加算が廃止され、3区分の新しい加算になりました。名称が変わり、点数が変わり、施設基準も変わっています。新加算の施設基準は、その第1項が「オンライン請求を行っていること」から始まります。

ここで、モデルの側を考えてみます。2024年時点の知識で止まっているモデルに医療DX関連の加算を尋ねれば、「医療DX推進体制整備加算1は12点です」と答えるでしょう。この回答には二つの誤りがあります。その加算はすでに存在せず、点数も現行のものではありません。

臨床ガイドラインの場合、誤りは医師が気づいて訂正できます。しかしレセプトの場合、請求は月単位でまとめて処理され、結果が返ってくるのは翌月以降です。誤りに気づくのは、増減点連絡書が届いたときになります。

支払いの受け取り — 訂正には期限がある

査定に納得できない場合、医療機関は再審査請求を行うことができます。請求の期限は6か月以内で、結果は原審通り、一部復活、復活のいずれかです6。

請求の方法についても、制度は動いています。レセプトのオンライン請求は、2023年11月30日の省令改正により、2024年4月1日から原則となりました。2024年4月以降に新規に指定される保険医療機関は、光ディスク等や紙による請求を開始することができません9。

患者とのコミュニケーション — 同意の設計

患者への対応をAIが担う場合、二つの制度を踏まえる必要があります。

一つは応招義務です。厚生労働省は2019年12月25日の医政局長通知(医政発1225第4号)で、医師法第19条第1項の応招義務は医師が国に対して負担する公法上の義務であり、医師の患者に対する私法上の義務ではないと整理しています10。診療を拒む正当な事由に該当するかの検討要素としては、緊急対応が必要かどうか、診療時間内かどうか、患者との信頼関係があるかどうかが挙げられています。

もう一つは個人情報保護法です。診療録に記載された病歴、診断や調剤に関する情報、健康診断の結果、障害に関する情報は、いずれも要配慮個人情報に該当します11。要配慮個人情報は、取得と第三者提供のいずれにも本人の同意が必要で、オプトアウトによる第三者提供は認められていません。

医療情報を研究開発に用いる経路としては、次世代医療基盤法があります。2018年5月11日に施行され、2024年4月1日には改正法が施行されて、匿名加工医療情報に加えて仮名加工医療情報の作成・提供が可能になりました12。仮名加工は、匿名加工と異なり、特異な値や希少疾患名の削除等を要しません。ただし国の認定を受けた事業者に限られ、利用事業者には再識別と第三者提供の禁止が課されます。

システムの安全管理については、医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第6.0版が基準となります13。

5段階に共通する構造

調べ終えて見えたのは、段階ごとに異なる規制がある、という話ではありませんでした。すべての段階で、版が動き続けているということです。

各段階で参照すべき基準と、その更新状況
段階参照すべき基準直近の動き
診断医師法第17条、薬機法のクラス分類比較的安定
カルテ記載医師法第24条、電子保存の三基準、標準仕様標準仕様ver.1が2026年9月公表
レセプト送信療養担当規則、診療報酬点数表、関連通知2026年6月1日に改定施行
支払い審査基準、再審査請求の期限オンライン請求が2024年4月から原則
患者対応個人情報保護法、次世代医療基盤法改正法が2024年4月施行

診療報酬は2年ごとに改定されます。臨床ガイドラインは学会ごとに数年おきに改訂されます。電子カルテの標準仕様は、いまこの時期に初版が出たところです。

前回の記事では、モデルが6年前のガイドライン改訂に追随できていないことを示しました。日本の医療制度は、それより速い周期で動いています。

確認できなかったこと

正確を期すために書いておきます。

AIが生成した診療録の記載について、責任の所在を示す公的な見解は見つかりませんでした。各医療機関が個別に整理している状況と考えられますが、確証はありません。

AIを活用したがん検診に関する規制改革推進会議の議論についても、確認を完了できませんでした。2026年2月12日の健康・医療・介護ワーキング・グループで資料が提出されていることまでは確かめましたが、内容を正確に引用できる状態まで読み込めていません。

また、本稿で扱ったのは制度上の制約であり、実際に医療機関がAIを導入した際に生じる運用上の課題については調べていません。それは制度を読むだけでは分からない領域です。

おわりに

AIを日本の診療現場で動かすとき、止まる場所は診断ではありませんでした。診断については、判断の主体は医師であるという整理が明快に示されています。

止まるのは、その後です。請求の段階で、告示・通知に定められた算定要件との不一致が査定となって現れます。そしてその算定要件は、4か月前に入れ替わったばかりです。

私たちがこれまで測ってきたのは、モデルが日本の一次情報に追随できているかどうかでした。制度の側を確認して分かったのは、追随すべき一次情報が、想定していたより速く動いているということです。

出典

  1. Mozu Health のコラム既刊4本。 https://mozuhealth.jp/blog/ ↩
  2. 厚生労働省医政局医事課長通知「人工知能(AI)を用いた診断、治療等の支援を行うプログラムの利用と医師法第17条の規定との関係について」平成30年12月19日、医政医発1219第1号。 ↩
  3. 医薬品医療機器総合機構(PMDA)「プログラム医療機器」および「医療機器プログラム(SaMD)の審査ポイント」。 https://www.pmda.go.jp/review-services/drug-reviews/about-reviews/devices/0048.html ↩
  4. 医師法第24条。電子保存については厚生労働省「診療録等の保存を行う場所について」平成14年3月29日、医政発第329003号・保発第329001号、および診療録等の電子保存に関する真正性・見読性・保存性の基準。 ↩
  5. 厚生労働省 医療等情報利活用ワーキンググループにおける標準型電子カルテおよび電子カルテ情報共有サービスの検討状況。標準仕様ver.1の2026年9月公表、2027年4月からのベンダー提供、電子カルテ情報共有サービスの2026年度冬ごろの本格運用。 ↩
  6. 社会保険診療報酬支払基金「診療報酬の審査・支払業務の流れ」および「審査に関するQ&A」。査定の事由区分と再審査請求については、公益社団法人東京都医師会「開業医のための保険診療の要点」レセプトの点検、審査、返戻、査定、再審査請求など。 https://www.ssk.or.jp/shinryohoshu/gyomuflow/index.html ↩
  7. 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について」。中央社会保険医療協議会答申は2026年2月13日、本体改定率プラス3.09%、薬価改定は2026年4月1日施行、診療報酬改定は2026年6月1日施行。 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_67729.html ↩
  8. 厚生労働省保険局医療課「令和8年度診療報酬改定の概要【医科全体版】」。電子的診療情報連携体制整備加算の新設(医療DXに係る評価を改組)、医療DX推進体制整備加算および医療情報取得加算の廃止、各点数および施設基準。 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_71068.html ↩
  9. 厚生労働省「保険医療機関・薬局におけるオンライン請求等」。2023年11月30日の省令改正により2024年4月1日からオンライン請求が原則。 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000190624_00001.html ↩
  10. 厚生労働省医政局長通知「応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について」令和元年12月25日、医政発1225第4号。 ↩
  11. 個人情報保護委員会・厚生労働省「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」。要配慮個人情報は個人情報保護法第2条第3項ほかに定義。 https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/iryoukaigo_guidance/ ↩
  12. 内閣府「次世代医療基盤法」(医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報及び仮名加工医療情報に関する法律)。2018年5月11日施行、改正法は2024年4月1日施行。 https://www8.cao.go.jp/iryou/nintei/nintei.html ↩
  13. 厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第6.0版」(2023年5月)。概説編・経営管理編・企画管理編・システム運用編の4編で構成。 ↩